東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)89号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。
1 成立に争いない甲第二号証(本件願書)、甲第三号証(昭和六〇年三月八日付け手続補正書)及び甲第四号証(昭和六一年五月九日付け手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のとおりと認められる(別紙第一図面参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本願発明は、自動車用の車輪軸受装置に関する(願書添付明細書第二頁第二〇行及び第三頁第一行)。
外輪を成す軸受部分(自動車に備えられた接続部品に固定できる。)と内輪を成す軸受部分(車輪ボスとブレーキ板を取り付けることができる。)がそれぞれ一体で、両軸受部分間に配置された二つの転動体列の転動体の数が同数の自動車用の車輪軸受装置は公知であり、これは例えば乗用車の場合には非常に有効であるが、レーシングカーの場合には、車輪が多重に配置されているので、車輪圧力線が一定の大きさだけ軸受中央から外側にあるため、軸受装置にトルクが作用し、このトルクが追加の荷重分力を発生させ、車から見て外側にある転動体列の方が、これに隣接する内側の転動体列よりも高い荷重を受ける。本願発明は、前記の知見に基づき、半径方向にも軸方向にも相対的に高い荷重を受けることができ、しかもその負荷容量に比して寸法が比較的小さく、例えばレーシングカーに車輪を取り付けるための、コンパクトで簡単に製造できるころがり軸受け装置を創作することを課題とする(同第三頁第二行ないし第四頁第八行)。
(二) 構成
前記課題を解決するために、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものである(同第四頁第九行ないし第一四行、昭和六一年五月九日付け手続補正書第二頁第四行ないし第八行)。
本願発明を別紙第一図面の実施例によつて説明すると、二つの軸受部分(内輪1、外輪2)は、ころがり軸受の内輪と外輪を成す。内輪1は軌道輪3とフランジ状の外側部分4から構成され、外側部分4の周囲に分散状に設けられたいくつかの穴5は、ブレーキデイスクと車輪ボスをボルトによつて固定するために用いられる(願書添付明細書第七頁第三行ないし第一一行)。外輪2は、並列した二つのリング部品6と7から成り、両リング部品は向い合つている二本の合くぎ8によつて連結され、互いに固定される(図面には一本の合くぎだけが示されている。)。リング部品6と7の断面形状は同じで、対称状に配置されており、製作の際は嵌め込まれた合くぎによつて一緒に研削される。外輪2は、両リング部品6と7によつて形成された中間隔て部9を持ち、その中間隔て部9の両側に転動体(図面では球11と球12)の軌道面が設けられる。外輪2の外側部分の回りにはいくつかの取付穴13が分散状に設けられ、この穴にねじを締めて外輪2を車両の接続部品に固定するが、これによつてリング部品6と7も互いに押しつけられ、まとめられる(同第七頁第一二行ないし第八頁第八行)。
内輪1と外輪2の間には、球11と球12が、軌道輪3及び外輪2と共にアンギユラ球軸受を成すように配置され、球11は全部で転動体列Ⅰを、球12は全部で転動体列Ⅱを成す。転動体列Ⅱの球12の数は転動体列Ⅰの球11の数の約二倍であるから、転動体列Ⅱは、この領域に生じる、より高い荷重を危険なく受けることができる(同第八頁第九行ないし第一九行)。
(三) 作用効果
本願発明の車輪軸受装置は、その構造上、組立てが非常に簡単であり、しかも、従来の同じ大きさの軸受に比べて、より高い片側負荷容量を持つ。すなわち、外輪が一体に作られ詰込み溝がない場合は、リングを相互に偏心させ、ずらして転動体を詰め込まねばならないから、軸受の回りにはほぼ半周分しか転動体を詰めることができない。これに対して本願発明においては、外輪が二つのリング部品に分割されているため、一方のリング部品は、全周にわたつて転動体を詰めた保持器の上に押しやることによつて他方のリング部品より多くの転動体を詰めることができ、他方のリング部品は、通常のように偏心させて、ほぼ半周分詰め込むことができるのである(同第六頁第一行ないし第二〇行)。
なお、両リング部品を同一断面に作り、それらを対称状に並べて配置すると、製造技術上、特に有利である(同第五頁第一〇行ないし第一二行)。
こうして組み立てられた車輪軸受は、コンパクトな、いつでも取り付けられるユニツトを成している(同第九頁第一四行ないし第一六行)。
2 右のとおり、本願発明は、従来の同寸法の軸受より高い片側負荷容量を実現することを主たる目的として、外輪2を二つのリング部品6、7で構成し、これらを連結部材(実施例においては合くぎ)によつて外せるように互いに連結しているものであるから、そのようにして組み立てられた車輪軸受装置が剛体のユニツトを成すことは、本願発明の要旨とする構成からみて技術上自明の事項と認められる。
3 一方、成立に争いない甲第六号証によれば、引用例2記載の発明は、次のとおりのものと認められる(別紙第三図面参照)。
引用例2記載の発明は、ハウジング内で歯車シヤフトを支持する複数のころがり軸受に適正な予圧を与えるユニツトを形成することを特徴とする歯車伝動装置に関するものであつて(第一頁左下欄第八行ないし第一六行)、外方レースが歯車シヤフト(2)を支持する複数のころがり軸受間において軸方向にあらかじめ分離設定され、これを固着連結する工程中にころがり軸受に所望の予圧が付与されるようにしたものである(第二頁左下欄第三行ないし第八行)。(4)が歯車伝動装置のハウジングであつて、歯車側部分(4a)と駆動部材側部分(4b)に分離設定される。そして、ハウジング部分(4a)、(4b)の内周面には、前記歯車シヤフト(2)に形成された内方軌道(21)及びスリーブ(3a)に形成された内方軌道(31)に対応する、外方軌道(4al)、(4bl)が形成され、各軌動間には数個の転動体(5)が配置される(第二頁右下欄第一三行ないし第三頁左上欄第四行)。次いで、軸方向に分離設定されていたハウジング部分(4a)、(4b)を、各連結部において、周知の手段により固着させるが、そのハウジング部分(4a)、(4b)を軸方向に互いに反対方向に移動させる工程時に、ころがり軸受に適正な予圧が付与される(第三頁左上欄第一二行ないし第一八行)。なお、歯車伝動装置においては、長期間の使用によつて歯車シヤフトを支持するころがり軸受にかかる予圧の低下が考えられるので、再調整に応じ得る固着手段が望ましく(第三頁右下欄第八行ないし第一三行)、この問題を解決する固着手段として、エポキシ系接着剤などによる固着連結が考えられる。接着剤を用いた場合は、連結部を加熱、化学変化させることにより、固着部を全く、あるいはほとんど損傷することなく分離が可能となる(第四頁左上欄第一行ないし第八行)。
4 そうすると、本願発明と引用例2記載の発明は、外輪が二つの部品から成り両部品を連結する構成の軸受装置である点において共通しているが、引用例2記載の発明は、前記のとおり適正な予圧を与えることのみを目的とするため連結手段として接着剤による固着連結を採用しており、本願発明とは技術的課題及びこれを解決するための連結手段の構成を異にし、その結果、本願発明と同一の作用効果、すなわち、従来の同寸法の軸受より高い片側負荷容量を得ること、リング部品を対称状に配置し一緒に研削できること、及び、組み立てられた軸受装置が剛体のユニツトを成すことの、いずれをも達成できないことが明らかである。
以上のとおり、本願発明は、引用例2記載の発明と異なる連結手段を採用することによつて、引用例2記載の発明では達成できない顕著な作用効果を奏し得るものというべきであるから、本願発明における相違点<1>の構成が引用例2記載の発明に比し格別の作用効果を奏するものとは認められないとした審決の認定、判断は誤りである。
そして、審決の右認定、判断は、本願発明が要旨とする「外輪2は少なくとも二つの並列に配置されたリング部品6、7と、前記リング部品に係合して両リング部品を外せるように互いに連結する連結部材とから成り」に対応するものであるところ、右が本願発明の目的を達成するために不可欠の構成要件であることは明らかであるから、審決の認定、判断に前記の誤りがある以上、その余の点について検討するまでもなく、審決は違法なものとして取り消されるべきである。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
互いに相対的に回転できる内輪と外輪を持ち、その間に少なくとも二つの転動体列が配置されており、前記内輪と外輪はそれぞれ接続部品に固定できる外側部分を持つアンギユラ球軸受型の自動車用の車輪軸受装置であつて、外輪2は少なくとも二つの並列に配置されたリング部品6、7と、前記両リング部品に係合して両リング部品を外せるように互いに連結する連結部材とから成り、かつ、一方の転動体列の転動体の数は他方の転動体列の数よりはるかに多いことを特徴とする自動車用の車輪軸受装置(別紙第一図面参照)
〔編注2〕 本件における図面は左のとおりである。
別紙第一図面
<省略>
別紙第二図面
<省略>
<省略>
(以下省略)